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お父さん

日本に3ヶ月里帰りしてアメリカに帰る数週間前、父の両脚が急に腫れてパンパンになった。

父は糖尿病で、ずいぶん前に脳梗塞を併発してからずっと自分で栄養管理をやってきて、
昔はインシュリンを注射で打っていたのに錠剤に変えられるようになるなど、私の感じとしては
よくなってきたように思っていた。

脚の腫れは週末だけにやっている家の仕事をした後にひどくなるので、私は
「立ち仕事が原因なんじゃないか」と言った。血栓ができて腫れることもあるらしい。
というのも11年前に亡くなった母が病床についていた頃、座ることができなくてずっと立っていたら
脚がパンパンに腫れ上がった時期があったからだ。

「そうやな、体が疲れとるのかもしれん。」

私たちがアメリカへ帰ったら病院に行くと父は言って別れたが、帰国してしばらくしてから
妹が電話をかけてきた。

「話さなあかんことがあるんやけど」

妹によると、父は3日間の検査入院から帰ってきたばかりだという。
病院へ診察に行ったところすぐに入院して検査することになったらしい。
それでわかったのが、父の腎臓が腎不全の一歩手前の状態で、徹底した食事制限をしても
1年後くらいには人工透析を受けなければならないかもしれないということだった。

驚く私に妹は「まあ、それはそれとして置いといて」と言う。
その後に妹が続けたのはすごくショックな内容だった。

「退院するちょっと前に撮ったCTスキャンで肺に大きな影が見つかったらしい」

父の退院日がちょうど土曜日だったため妹は仕事が休みで家にいた。
父から電話をもらって急遽妹も病院で担当医の話を聞くことになった。

妹によると、まだその腫瘍が何かはわからないものの腎臓よりもまずそちらの治療を
優先して行うべきなので呼吸器科の医師を紹介する、まずは呼吸器科医と話して今後の検査や
治療の方針を決めていくこと、食事制限はできるかぎり徹底して行うこと、などが話されたという。

でも父は糖尿病の治療のために毎月1回血液検査をしていたしレントゲンも撮っていたので、
どうしてもっと早く発見されなかったのかと聞くと、血液検査でも癌の発見はできないことが多いし、
腫瘍の位置が心臓のすぐ後ろあたりなのでレントゲンでもわかりにくいということだった。

もう私は声が出なかった。

私の母は横隔膜の近くにできた肺がんで亡くなったのだ。

翌日父から電話がかかってきて話した。
多くの事柄は既に妹から聞いていたことだったが、淡々と話す父の声は切なかった。

結局その腫瘍は肺がんだった。それも母と同じタイプの腺がんですべてを手術で切り取ることはできない。

とうとうこういうことが起きてしまった。
母が病気になったときは、アメリカの学校を卒業した直後に日本へ帰って、そのまま看病をしながら6か月後に母を看取ることができた。
今は結婚して子どもがいるので、なかなか身軽に移動することができない。異国に住む者の宿命というか、周りのみんながよく話しているようなことが自分の身にも起こってしまったのだ。

私は母が病に倒れたとき、日本に戻ってこれて、ずっと母と一緒にいれたことを今も本当に感謝している。
あの時は私もまだ若くてよくわかっていなかったけれど、バイト先でやはり母を看取った人がいて「すぐ日本へ帰って毎日一緒に過ごした方が絶対いい。私は毎日母と一緒にいて、病室でも床で寝ながら看病した」と言ってくれたので、自分もそうしたのだった。
だから父も、もしもの時にはそばにいて看取ってあげたいと思っている。

でもそんなとき、ふとゴンちゃんのことを思い出す。
母がものすごくかわいがっていたラブラドールとゴールデンの雑種で、母の方が何年も早くに亡くなってしまったのだが、母はよく「もしゴンが死んだら毎日泣いて暮らさなきゃならない」と言っていた。「大型犬は寿命が短いからね」と言って。
皮肉なことに、それからそんなに間を開けないで母が先に逝ってしまった。
父を看取るつもりでも、意外に自分の方があっけなく先に逝ってしまうかもしれない、と。
母は病を得たのが52歳で、53歳になって数か月で亡くなってしまった。今自分が母の年齢に近づいていくにつれて、母は本当に若くして亡くなったんだな、としみじみ思う。

その後父は、手術と放射線治療をしただけでこれと言った治療もしなかったのだが、今となってはそれが逆によかったか、進行はとても遅く、6年経った今も(2018年)両肺に広がってはいるものの、なんとか一人暮らしをしてやっている。ただこれからどうなるのかはわからない。私はまだ相変わらずニューヨークに文句を言いながらも住み続けている。


by flyingbocian | 2012-06-23 03:43 | 日本のこと


異国のNY砂漠で子育てを乗り切るため睡眠を削って綴るもしかして爆笑もしかして涙ほろり日記


by flyingbocian

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